HDDはテクノロジーの塊!そのすごさと最新技術に迫る

皆さんご存じ、老舗データストレージメーカーのウエスタンデジタル。前回はそのオフィスに潜入しましたが、そこで見せてもらったショールームが、控えめに言って「すっっっっっっげえ面白かった」んです。

というわけで今回はみなさまに、ショールームで知ったHDDのヤバい技術について、ご紹介していきたいと思います。

屋内画像

ここがウエスタンデジタルのショールーム。すでに左側の窓から展示物がチラ見えしておりますが……

屋内画像

中はこんな感じ。奥にはパネルがたくさん貼ってあるのに加え、その手前にはショーケースに入った実物展示があります。

加えて逆サイド(上の写真では向かって右側)にも…

屋内画像

充実の展示物!これらの中から、個人的にグッと来たものをご紹介していきたいと思います。

入門・HDDの仕組み

こまかい話に入っていく前に、まずはHDDがどうやって動作しているのか、基本からご説明しましょう。

HDD

これがHDD。この記事を読んでいる方ならだいたい見たことがあるでしょうか。初見の方は、これがパソコンの中に入っていると思ってください。(サイズ違いはいろいろあります)

で、このケースを透明にした展示モデルがこちら。

HDD

各部位の名前はこんな感じ。

HDD

覚えなくても大丈夫です。読み進めて「あれ?」ってなったら見に戻ってきてください。

このモデルを使って、HDDがどのように動くか見ていきましょう。といっても3ステップのシンプルな動作です。

①まず、電源を入れるとスピンドルモータが回ってディスクが回転します。チュイーン。

スピンドルモータ

②いざ、データを読み込む/書き込むぞ!というときは、アームがニュイって動いて先端の磁気ヘッドがディスクの上にやってきます。

データはディスクに磁気で書き込まれているので、その書き込まれている位置まで、物理的にヘッドを持ってきて、アクセスするわけです。

磁気ヘッド

③ところが!データって一カ所に固まってるわけではないんですね。ディスク上のいろんなところに分散しています。それを高速に読み込むためには…

ランダムアクセス

シャシャシャシャシャシャ!とこのようにアームが高速に動いて、ディスク上に散らばったデータを的確に読み込んで(書き込んで)いきます。これがランダムアクセスと呼ばれる動作です。

で、上の写真だとちょっとわかりにくいですが、ディスクって一枚じゃありません。

展示キャプション

こんな感じで複数枚重なることで、大容量のデータが記憶できるというわけです。HDD自体の厚みは規格で決まっているため、たくさん枚数を入れるのにも技術が必要。現在のところ最大11枚まで入れられるとのこと。

なんとなくわかりました? ここまでが入門編です。では始めましょうか。HDDの本当にすごい話を……。

HDDのすごいところ① ヘッドは「飛んで」いる

ディスクの上をシャシャシャっと移動するヘッド。ディスクの表面に当たったら傷がついてしまいますし、ディスクから離れすぎると読み書きがうまくできません。ほどよい高さにある必要があります。

これ、普通に考えたらアームの根元に柱みたいなものがあって、そこで高さが固定されていると思いますよね?

違うんですよ。あれ、ディスクの上を飛んでるんです。この図を見てください。

展示キャプション

上の図が磁気ヘッド。左に「空気」と書いた矢印がありますよね。これはディスクが回転することによって発生する風です。この風を受けることで磁気ヘッドがちょっと浮いて、ちょうどいい高さを保っているというわけです。つまり、固定されてるんじゃなくてディスクの上を飛んでるんですね…!

そしてその「ちょうどいい高さ」というのが、1ナノメートル(=10億分の1メートル)。下に飛行機の絵がありますが、磁気ヘッドの大きさを旅客機サイズまで拡大しても、その高度は0.1mm以下にしかならないのだとか。どんな熟練パイロットにもできない低空飛行です。せ、精密すぎる…!

この精度の高さをより詳しく説明したのが、下の図。

展示キャプション

赤丸の中のうっすい黄色部分、「ヘッド浮上量」と書かれたのがヘッドが浮いている高さ。もしディスクに指紋をつけてしまったとしたら、付着する油脂の厚みが右にあるオレンジ色のふにゃふにゃです。ヘッドの高さは指紋の厚みより全然薄いことがわかりますね。

指紋ですらダメなのに、ましてやホコリが入ったりなんかしたら大変!ということで、HDDは絶対にホコリが入らないよう、頑丈なケースで保護されているわけです。

展示キャプション

前回、会社潜入で訪れた研究開発エリアにも、クリーンルームスーツが設置されていました。ホコリ厳禁…!

HDDのすごいところ② ディスクはすっごい平ら

いくらホコリが舞っていなかったとしても、ディスク自体が凸凹してたらヘッドがぶつかっちゃいますよね。そのためディスクの表面はすっごい平らです。

こちらも説明の図を見てください。

展示キャプション

ディスクの面積を米国の国土とすると、許される凸凹は野球ボールくらいまでなのだとか!国土とボールってスケール感が違いすぎてもはや全然ピンときません、そんな想像力が追いつかないレベルの真っ平らさなんです。

HDDのすごいところ③ ヘッドの動く精度もすごい

もうひとつだけ精度の話を。ランダムアクセスするとき、アームがシャシャシャっと動いてヘッドの位置を決めていましたよね。あの位置決めもまたすごいんです。

まずあのアーム、どういう原理で動いているかというと、上の方の図で「ボイスコイルモータ」という名前が出てきましたが、一種の電磁石です。さっき動きを見たモデルの、ボイスコイルモータ部分を拡大した写真がこちら。

展示画像

根元にちょっとだけコイルが見えてますね。ここから発生する磁力で動いています。

展示画像

上の写真はアームから取り外したヘッダの基板で、ヘッドそのものは矢印の黒い部分。すごく小さいです。

いっぽうでそのアクセス対象であるディスクのほうもすごい密度でデータが詰まっているわけで、もし読み書きするときにちょっと位置がずれたりしたら、全然違うデータを読み取ってしまうわけです。これは困る!

ですがご安心ください。このヘッドもすっごい精度で動いてます。

展示画像

位置決め精度はこれまたナノメートル単位。ナノメートルってデシリットル以上に普段使わない単位ですが、この記事ではバンバン出てきますね。

これも縮尺を変えて喩えると、ゴルフで700km先からホールインワンさせるくらいの精度なんだそうです。もはや毎回すごすぎてだんだん感覚が麻痺してきました。

実は古い資料では「378km」となっていて、「500km」となり、現在は「700km」となったそうです。どういうことかわかります?技術が進歩して精度がさらに上がったということです…!!

HDDのすごいところ④ 全然まだ進化している

というわけですごいところ④、HDDってどんどん進化してるんです。ずいぶん昔からあるので完全に枯れたテクノロジーかと思いきや……大容量化に高速化、そして幅広い動作環境への対応と、ウエスタンデジタルも日々新たな技術を開発しています。

展示画像

これは1989年のHDD。ディスクのサイズは10インチと大きく(現在は3.5インチや2.5インチが主流)、このサイズで1.89Gだったそうです。これよりもっと古い最初期のものは24インチもあったとのこと!

展示キャプション

上は年代ごとに増えていったHDDの記録密度を表したグラフ。いくつもの技術革新を経て、現在は最初期と比べると5億5千万倍もの高密度で記録できるようになりました。

具体的にどんな技術革新があったかというと、例えば垂直磁気記録といって、いままで書き込みするときにディスク上に水平にN極とS極を作っていたのを、ディスクに垂直に作るようにしたこと。

そして現在製品化に向けて研究を進めている次世代技術がHAMRというもの。

展示キャプション

今よりさらに高密度でディスクにデータを書き込むためには、ディスクの素材をより磁気を保持しやすい素材に変えることが有効です。ですが、そういった素材はヘッドからの書き込みもしにくいのです。そこで、レーザーで書き込み部をピンポイントに加熱することで、書き込みやすい状態にしてデータを記録するというもの。いやちょっともう全然想像もつかなかった話です。

ほかにも磁気を瓦状に重ね書きして高密度化する瓦記録や、HDD内の気体を空気でなくヘリウムにすることで発熱しにくくして動作信頼性を上げ、さらにディスク枚数を増やして大容量化するなんていう技術も実用化されています。

いやもうめっちゃくちゃに最先端でした。HDD業界。ついさっきまで「完全に枯れた」とか思っていた自分を恥じます…。

HDDのすごいところ⑤ いろんなサイズがある

これは技術的に感動したというよりも、見た目にグッときてしまった点なのですが……

展示画像

サイズがけっこういろいろあるんです。中でも心をつかまれたのは……

展示画像

これ。マイクロドライブ。

前回もちょっと触れたのですが1インチのHDDで、デジタルカメラのコンパクトフラッシュのスロットに挿して使っていたそうです。横に置いてあるコインは500円玉。このかわいいサイズ、キーホルダーにして欲しいですよね。「ガチャガチャに入れたら売れるんじゃない!?」などと現場は盛り上がりました。

というわけでHDDのすごさ、そして精密さ、皆さんおわかりいただけたでしょうか!

社員さんが「SSDのほうが精密機器のイメージを持たれがちだけど、実はHDDドライブの方がよっぽど精密」と言っていたのが印象的でした。ほんとそうだわ……。

続いては社員さんに教わった、ウエスタンデジタル製HDDの推し機種について説明していきたいと思います。

ウエスタンデジタル製HDDのおすすめはこれ!

社員さんによると、まずエントリー製品としては、昨年大ヒット製品となったのが「WD Blue 8TB」。

WD Blueシリーズは低消費電力、低発熱、静音性の3つが特長の内蔵HDDで、その中で最大容量の8TBが「飛ぶように売れた」とのこと。

WD Blue 8TB

ちなみにウエスタンデジタルのラインアップはBlue、Black、Red、Purple、Goldのカラーで用途がわかれています。

  • Blue……スタンダードモデル。一般消費者向け
  • Black……ハイパフォーマンスモデル。クリエイターやゲーマー向け
  • Red……NAS用。24時間365日の稼働を想定
  • Purple……監視カメラ向けモデル
  • Gold……データセンター向けモデル

これは覚えておくと便利かも!

ハイエンド製品では、「32TB UltraSMR HDD」。昨年の10月に発表したモデルで、エンタープライズ向けに実績があり信頼性の高いエネルギーアシストPMR(ePMR)記録技術を適用しています。これは書き込み時に追加の電流を流すことで、より高密度(=大容量)の記録を実現するというもの。またePMR搭載HDDとしては世界最大容量を誇るそうです。

32TB UltraSMR HDD

内蔵HDD以外でいえば、My Passportシリーズ/WD Elementsシリーズのクラス最大容量である6TBもおすすめだそうです。いずれもポータブルHDDですが、My Passportシリーズはよりセキュリティ機能が強化されているとのこと。

というわけで、HDDに使われているすごい技術、そしてウエスタンデジタルの推し製品についてご紹介しました。いままで何気なく使っていたHDDですが、中でヘッドが飛んだり高速で高精度位置決めが行われていたりと、何が起きているかを知るとつい意識してしまいますね。この原稿を書きながらも思わずctrl+sを押す指に力が入りました。

ではまた!

ライター:石川大樹(いしかわだいじゅ)

編集者・ライター、電子工作作家。「しょうゆかけすぎ機」「メガネに指紋をつける機械」などを制作。 「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。趣味はワールドミュージック収集です。